来 歴


擬人法


空 羽の青い大きな鳥
たとえば街路樹の上へ
七彩の夕映えをひとはけえがいて
またゆるやかにはばたいて立ち去るとき
昔彼の頬を染めた不器用な恥じらいや
無限の高みへ向けたくちばしのするどさを
ありありと思い浮かべることができる
ひどく大きくてもてあましているのかもしれないのに
そのからだつきを感じさせぬところも
みごとな飛翔の形もすっかりもとのまま

魂 遠い太鼓の音
ただしあれをたたいている男の
苦しい汗の顔を見たことはない
夜ベッドの中で指をくむとき
千里向こうからひそかに伝わってくる胸の鼓動
けれでも彼の姿は知らぬ
彼の存在が遠すぎるのでもなく
彼の仮面が大きくてはずせないのでもなく
今度こそまともに向きあおうと決心するたびに
途方もない羞恥へ私をかりたててしまうリズム

アカシア ういういしいおとめ
風が吹けばたわむしなやかな腰のうねり
日が射せば光る葉群れのにこ毛
決してまちがわない だから言い訳などしない
きっとくちびるを噛みしめた顔つきを
はるか未来に送りとどけるすらりとのびた足
あやめもわかぬ闇の中では
ただそれ自身の存在として
何年間でも天に向かって立ちつくすだけ

人間 名前のない私
忘れてしまった私の名前なら
もう最後まで思い出さないことだ
何もかも見とおせる
狂気の精神などあてにせず
私自身実は仮の姿で
夜明けになってもまだ波だっている胸の中の海
見ひらいたまま閉じることができないまるい宇宙
そんな何にでも変りやすい女に
擬せられている何ものかだと信じていたいから

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